※現在「シルバーコース」はありません。
私どもの会には、シルバーコースという熟年者のためのコースがあります。先にあげたDさんは、シルバー会員ではありませんでしたが、単にシルバー希望者でなかったというだけで、家族との関係、パートナーに求めることなど、熟年者の幸せな結婚についてあますことなく体現された良い例だと思います。
シルバーコースは、同居を目的とし、入籍にはこだわらない内縁婚希望者のためのコースです。死別または離婚で伴侶と別れ、後の人生を新たな伴侶とともに暮らしたいけど、遺産や財産の問題で親族や子どもたちともめたくないという人たちのために設けました。茶飲み友達や話相手ではなく、同居して生活をともにする相手を見つけるのが目的です。
もともとこのコースは、遺族年金をもらっている女性を保護する目的で、当会設立当初に父が作りました。ちょうど電車やバスにシルバーシートというものが設置されたころで、それをヒントに「シルバーコース」と名付けたものです。ですから、このコースを希望していらっしゃる会員さんのファイルには、Sというマークがついています。
夫と死別した女性は、再婚するとその年金をもらう権利がなくなってしまいます。でも、再婚した相手と何らかの理由で別れてしまうこともあるでしょう。そうなると、女性は収入の道をまったく絶たれることになります。高齢になってからのそういったリスクは避けたいという女性のために設けたものですが、最近は財産を持っている男性の利益保護といった目的も兼ねるようになりました。
「入籍にはこだわらない」会員さんたちのためのコースですが、実際には入籍するかしないかは、会員さんたち本人におまかせしています。なかには、同居して三年くらいしてから「この人にも何か残してあげたい」と男性が思うようになり、周囲も納得して籍を入れた方もいらっしゃいます。
ある八十一歳の男性が、七十三歳の女性をたいへん気に入り、ぜひうちに来てほしいということになりました。でも、男性が糖尿病を患っていたこともあって、いったん女性はこのご縁を断りました。ところが男性は、「二千万円ある預金も家も全部あなたの名義にするから、ぜひうちに来てほしい」と女性に頼み込んだのです。そして子どもたちには「お前たちはそれぞれ自分の家族を持っていて、それで手いっぱいだと思う。だから、私は自分自身のパートナーを見つけ、残りの人生をともに暮らしていきたい」と自分の気持ちを話し、子どもたちも納得してくれました。結局、その女性は男性の勢いに押されるように籍を入れ、今はたいへん幸せに暮らしています。それまで彼女は生活保護で暮らしていらっしゃったこともあって、我々仲人の間で彼女はちょっとした「シンデレラおばちゃん」として有名になりました。八十一歳の男性も、彼女と生活をともにすることでとてもお元気になられ、子どもたちもそれを見て安心したという話を聞いて「若い人たちだけでなく、人生の終盤にさしかかった人たちの幸せも作ることができるんだなあ」と、この仕事のおもしろさを改めて感じた次第です。
シルバーコースに限らず、年齢を経てきた方が若い人といちばん違うところは、入会と結婚がほとんど同時というくらい、すぐに結婚が決まることです。
以前、私どもの仲人さんになったばかりの方のところへ、六十五歳の男性が第一号の会員さんとして登録され、高齢者の例にもれず、やはり入会してすぐに結婚が決まりました。仲人にとって、結婚が決まったときほど人をお世話する喜びを感じることはありません。彼女は、仲人になったと同時に人をお世話する喜びを知ることになりました。それに勢いを得て、囲碁も会員さんをどんどん増やし、「若い人はむずかしいわね」と言いながら、若い人も年を経た人も次々に結婚させていきます。
五十代以上になれば、相手の方が住んでいらっしゃる家を見に行き、「この家に住むんだったらいいわ」ということでだいたい決まります。旅行だって、食事だって一人より二人でしたほうが楽しいに違いいありません。残りの人生を一人で過ごしたくない。やはり朝起きて、隣の人の顔を見て「ああ、今日も生きている」という実感を得たい。心の安らぎを得られる方であれば、それ以上は求めないといつた方ばかりです。
若い人のように、お相手の身長や学歴を気になさる方はほとんどいらっしゃいませんが、その代わり、思いもかけないことが生涯になったこともありました。
以前、五十四歳の女性会員さんがいらっしゃいました。二十代で結婚と離婚を経験し、以後ずっと独身を通してきた方です。彼女は猫を五匹飼っていました。ところが、この猫が障害となり、何人かとお見合いしてもなかなか決まりません。動物好きな方はたくさんいらっしゃるのですが、一、二匹ならともかく、五匹なるとそれだけで引いてしまいます。二十人くらいとお見合いしては断られ、「もうやめようかしら」と思い始めた頃、ようやく猫もいっしょに同居してもかまわないという男性が現れ、それからはトントン拍子に結婚が決まりました。
独り暮らしの長い人にとって、猫や犬はずっといっしょに暮らしてきた伴侶のようなものです。家族同然というわけですから、その家族も含めて受け入れてくださるような方を探すわけです。シルバーの方が決まるのが早いとはいえ、特殊な条件をお持ちの方は、他の方々より多少時間がかかってしまうのは仕方ないと言えるでしょう。
年齢が高い人がすべてシルバーコースを選ぶかといえば、そんなことはありません。生活が豊かとは言えない女性のなかには、妻になるわけではありませんから、シルバーコースは嫌だという人もいます。シルバーコースを希望する方は、経済的には自立した高齢者の一部の方々と言えるでしょう。
シルバー結婚でいちばん大切なことは、なんといっても子どもの了解をとっておくことです。
五十歳くらいのころに奥様を亡くされ、その後八年くらいしてから会員となられた男性がいました。家の近くにあった仲人さんの看板を見て入会されたそうですが、最初は娘さんに「何を今さら」と大反対されたそうです。けれども、その男性が根気強く説得することで娘さんの心もなごみ、最後には「お父さんが幸せになるんだったらいいよ」と言ってくれました。最近。その男性は気が合う方を見つけて交際に入ったところで、デートのときには着ていく服を娘が見立ててくれると、うれしそうに話してくれました。娘さん自身婚約者がいて、「これで心おきなくお嫁にいける」と言っているそうです。「もしかすると、父・娘のダブル結婚式となるかもしれないね」と、仲人さんと話しているところです。
おもしろいことに、私どもの会では四十代の男性はあまり人気がないのですが、五十代はたいへん人気があるのです。企業に勤めている方も多いのですが、定年までの年数はいくらもありませんから、もう出世欲というのもありません。でもまだお元気な方ばかりですから、いっしょに旅行したり、暮らしを楽しむ相手としては適任なのかもしれません。
結婚したいという人は、それだけで精神的にとても若い人たちです。そうでなくては、結婚しようなどという考えは思いつかないでしょう。私どものシルバーコースの会員さんは、皆さん自分から入会される方ですから、実年齢よりずいぶん若く見えます。お子さんたちも、最初は親御さんの再婚に抵抗があっても、心のどこかでは「誰かと暮らしてくれれば安心」と考えているようで、最終的には了承していただくことが多いですね。
現在のところシルバーコースの方は、年齢が高く財産を持った方ということで、数はまだそう多くないのですが、今後高齢者が増え、再婚する機会が増えることを考えれば、これからますます必要とされるコースではないかと思っています。